錦です。
久々の編集後記。今回は、2週間後に迫ったWWDCのお話をしていきます。
編集後記は、最近の情報とか、常日頃から思っていることをダラダラ喋っていくっていうやつです。リークとかリリースとかに基づいてしゃべるわけではなくて個人の意見多めなのであしからず。
先月のイベントではM1チップを搭載したiPad Proが登場しました。iPad Pro登場以来最大のアップデートであり、最大の性能向上を果たしました。そして、チップがMacと共通化され、また「iPadとMacはくっつくんじゃないの?」という声が聞こえてきました。まぁただ、Appleのことですから、macOSとiPadOSを合体させることは金輪際ないのでしょう。あくまでもハードを投合しただけ。それ以外は機能も操作も統合されているわけではありません。
強まるiPadとMacの関係
そもそも、iOSとMacの統合自体は数年前から噂されていました。というのも、世界的なシェアを持つOSを開発している企業。例えばAppleやMicrosoft、Googleがそれに当たりますが、数年前までAppleだけがPCにもモバイルデバイスでも巨大なプラットフォームを持っているという状態でした(最近はChromeOSが台頭してきています)。そして、それはある種の面白い現象を引き起こすことになります。それがアプリの輸入です。
AppleのOSの中でiPadOSというのは市場でもかなり特殊なOSだと個人的には思います。タブレット専用OSということでそれに特化したUIや機能を備え、かつAndroidと違いOSを供給する相手がiPadだけなものですから機能もフルで活用することができます。最近であれば、AppleはiPadでMac並の事ができることをアピールしていて、例えばOfficeの作業ができるだとか、Photoshopが使えるなんて言うようなことをアピールポイントとして挙げています。
iPadは2019年以降、全てのモデルでApple Pencilが利用可能になっており、Macとはまた違った操作感を実現しています。この部分においてiPadはMacを上回っています。実際、Apple Pencilで作業することができるように、Adobe製品でもPhotoshopやIllustratorがすでにiPadにネイティブ対応しています。これまで、Macで利用可能だったプロ向けアプリは、徐々にiPadにも集まりつつあります。
Project Catalyst
皆さんは、WWDC 19で発表された「Project Catalyst」を覚えているでしょうか。いまは「Mac Catalyst」という名前に変わっているそうです。これは、iPadアプリを少し手直しするだけでMac上でも動作できるようにするというものです。もっと細かく言うと、iOS向けのフレームワークなどがMacでも利用可能になる上、iPadで既にリリース・開発したアプリをiPad向けAppとコードを共有しながらMac専用の機能を追加することもできるというものになっています。iPadアプリをMacに移植するためのものです。
今はM1 Macがリリースされ、開発者が許可すればiPad向けアプリをネイティブで動作させることができますが。
これらにはAppleの戦略があります。そもそもWindowsに比べてMacはマイナーなプラットフォームになります。そのため、アプリの数をプラットフォーム全体で比較しても圧倒的にWindowsに劣ります。一方iPadはタブレットOSの中ではAndroidやWindowsを大きく上回るプラットフォームになっています。そのためiPad向けに開発されたアプリも多く、その中にはPCへの進出を狙う開発者もいます。
そんな中でAppleが、自社のパソコンOSであるmacOSに最小限の労力で移行できる環境を提供するとなると開発者もMacへの進出が叶い、AppleとしてもMacのアプリが増える(しかもApp Storeなんかで配信してくれれば売上も伸びる)。ここでWin-Winの関係が生まれてくるわけです。これは、PCにもタブレットにもある程度のシェアがあるOSを持つAppleだからこそできる技です。
Catalystの逆
「Mac Catalyst」ではiPadアプリをIntel Macに最小限の労力で移植できるというものでした。M1 Macへの移植はネイティブで動作します。ではその逆はどうなのでしょうか。
現在のAppleのエコシステムの関係性はこの図のとおりになっています。
私が個人的にiPadOS 15に期待していることは、Mac Catalystの逆。MacアプリがiPadで動作しないかという点です。
そもそも、M1 MacでiPadアプリが動かせるのは、M1がApple Aシリーズをベースにしていて、同じアーキテクチャで動作しているからです。特に先日発表されたiPad Proは正真正銘Macと同じチップを搭載しており、M1 Macで動作するソフトは、理論上M1 iPadでも動作するということになりました。
そして、iPadはMacにはないタッチやApple Pencilという魅力を備えています。特にタッチスクリーンがネイティブでサポートされていないMacユーザーの一部からするとこれらは本当に魅力的に感じます。AdobeがIllustratorやPhotoshopなどをiPadに移植している通り、他のクリエイティブソフトがこのMac→iPadの流れに乗ってくる可能性も捨てきれません。
そんななかで迎えるのがWWDC。WWDCは開発者向けのイベントとだけあって、この手の話が出てきやすいものです。AppleはiPadOSとmacOSの統合については明確に「No.」と否定していますが、前述の「Mac Catalyst」や、M1 MacでiPadアプリを動作できるようにしている、一部のMac純正アプリがiPadアプリベースになっているなど、WWDCが開催される度にMacとiPadは関係を深めています。その一つが技術やデザインの貿易です。
例えば、Macの純正アプリ。今はマップアプリなど一部が「Mac Catalyst」によりiPadベースのものに置き換わっています。逆であればホーム画面のドック。ドックデザインもMacを受けてのデザインでしょう。
このように、MacとiPadは互いに導入された機能を相互的に導入してきました。パソコンとタブレットという立ち位置の関係上、iPadからMacという方向の物が多かったですが、それでもiPadとMacというのは昔に比べてにたものになってきつつあります。
そして、Apple Siliconは、この関係において最大の貿易です。Apple M1はAppleが十年近く培ったiPad向けApple AXプロセッサの技術をベースにしています。ソフトウェアも互換性があり、正直iPad Proをあのままにしておくのはもったいないんじゃないか。iPad ProでもMac向けのフルのプロアプリが動けば面白いと思います。それが私の言う「Mac Catalystの逆」ということです。
例えば、Final Cut Pro XやLogic Pro X、Xcodeなんかが対応してこれば面白い。
障壁
ここまで技術的にはiPadでM1 Macにネイティブソフトが動作するというお話をしてきました。しかし、iPadとMacでは操作の違いという大きな障壁があります。これはデザインの壁になります。iPadのタッチ操作に対して、Macはタッチ操作を受け入れない。おそらくこはiPadとMacの大きな差であり、Mac→iPadのアプリの移行の大きな障壁となるはずです。
基本的に、タッチ前提で作られたソフトウェアのデザインではボタンが非常に大きく作られているはずです。理由は指の操作はかなりアバウトであるためです。Apple Pencilのようなスタイラスペンならまだピンポイントで操作することができますが、タッチはマウスやトラックパッドとは違いポイントでの操作には不向き。細かな選択肢をピンポイントで選択するのは難しいのが現状です。一方、マウス操作は細かい調整をすることができるので、ボタンも細かく作られています。ここがデザインの大きな違いです。
タッチ前提で作られたデザインをポインタ操作に環境にすることはそんなに難しいことではないと思います。スクロール・スワイプ・ズーム・タッチはそれぞれマウスやキーボードで代用できますし、前述のデザインの壁は、タッチ前提で大きなボタンになっているなら、マウスでクリックしやすい。「Mac Catalyst」が最小限の労力で移植することができたのはこれも大きいと思います。
一方、マウス前提のデザインをタッチで使うことはかなり難しいと思っています。少し前にnoteに「やっぱりWindowsのタッチはしんどい」という記事を書かせてもらったのですが、ここで例に上げたWindowsを再度例に上げると、Windows自体はタッチでも使えるようなデザインに改良してきつつあるものの、パソコンの操作の主流はまだマウスとキーボードなので、ソフトウェアが対応していません。そして、ソフトウェアも簡単に対応できるものではなく、デザインを再考する必要があります。そもそも、iPadへの移植が望まれるプロアプリの多くが、マウスで操作するための細かなデザインを利用して一画面に多くの情報を表示するというデザインになっているものが多く、これをiPadに移行するのはかなり至難です。しかも、iPadには最大12.9インチというディスプレイサイズの制約もつきまといます。
実際、MacからiPadに移植した「Photoshop」も、Mac版とiPad版で機能は同じもののデザインは大きく異なっています。
割り切って導入?
このような障壁がありながらも、AppleはMacがApple Siliconベースになった事による恩恵をiPadにもたらすことになるでしょう。特に、ミニLEDのようなハイコントラストなディスプレイをiPadに持ってきたのは、iPadでもプロ向けのアプリを導入することが前提であるはずです。
考えられるのはMacアプリに対するApple Pencilとタッチのサポート追加のような、移植補助のAPIの発表。流石にデザインまではOSでいじると大変なことになりますから、デザインKitのようなものも配布されることになるのでしょう。
あるいは、Magic KeyboardやApple Pencilの利用を前提としたそのまま移植。ユーザーからの敷居は上がっていますが、タッチ操作とモビリティを求めるクリエイターやプロフェショナルからすると、約5万円の投資は必要になれど魅力的なはずです。無論、性能はMacと同じM1を積んでいるので問題はありません。
なにかこう・・・、Appleらしい方法でこれを解決してくるのかもしれませんが。
と語ってまいりましたがいかがだったでしょうか。iPadにもM1が搭載された以上、何かないわけはありません。それを今回は素人ながら予想してみた感じです。
特にiPadOSは、2019年にiOSで分離してから、かなりMacに近づきましたしね。今後どうなるのか、WWDCが楽しみです。