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AMD、「Ryzen 6000」シリーズAPUの詳細を明らかに 〜 電力効率はAlder Lakeを超えると主張、内蔵GPUはGeForce GTX 1650 Max-Qに肉薄

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錦です。

AMDがCESで発表されたモバイル向け「Ryzen 6000」シリーズAPUの詳細を明らかにしたことがわかりました。

Ryzen 6000シリーズ

Ryzen 6000シリーズは、Zen 3の後継となるアーキテクチャ「Zen 3+」に基づいて設計されています。アーキテクチャとしては、Zen 3+という名前から分かる通りZen 3からのマイナーアップデートのようにも見えますが、モバイル向けのラインナップとしてはかなり大幅なアップデートが加えられています。

大方の変更点をまとめると

  • TSMC 6nmプロセスルールで製造
  • Ryzenとして初めて5.0GHzに達するバリアントの登場
  • GPUにはRDNA 2が新たに採用
  • HDMI 2.1やDisplayPort 2への対応
  • AV1エンコーダを搭載
  • DDR5、LPDDR5メモリへの対応
  • PCIe 4.0への対応
  • 最新のワイヤレス規格(Wi-FI 6E/Bluetooth 5.2への対応)

などが挙げられます。実は、CPUについては順当な進化と言えるのですが、それ以外は大いなる進化を果たしているのです。

AMD、Zen 3+ CPUにRDNA 2 GPUを統合しグラフィック性能が2倍に向上した「Ryzen 6000」シリーズAPUを発表 〜 レイトレにさえ対応してしまうスーパーAPU - Nishiki-Hub

プロセスルール

AMDが特に強調している部分としてプロセスルールの更新があります。

Ryzen 5000シリーズはTSMC N7プロセスを利用していましたが、Ryzen 6000シリーズではTSMC N6(6nm)にアップデート。TSMC N6がN7の実質後継・・・というわけではなく実際にはその間にN7+というプロセスを挟んでおりこのN7+からEUV露光による製造技術が利用されています。

N7+とN6で大きな差となっているのはN7+とN7で互換性がないのに対してN6とN7では互換性があるという点。多分Radeon RX 6000番台のエントリラインナップ「Navi 24」が6nmに移行できたのはこの部分があるからなのでしょう。その他、N7+の実質マイナーチェンジではあるものの、N7よりかなり進歩しているようで、歩留まりの良さ、製造コストの削減に、前述の通り設計の自由度も相まってRyzen 6000番台の電力効率の上昇につながったそう。

CPUとGPU

CPU・GPUから見ていきます。

CPUは前述の通り、Zen 3からZen 3+に進化。これによる性能向上は、15W SKUで1.17倍となっており、順当な進化であると言えます。GPUはRDNA 2アーキテクチャとなり刷新されました。

Tiger Lake UP3の「Core i7-1185G7」(28W)と「Ryzen 7 6800U」(15W)での比較では、RyzenのほうがTDPが低いにもかかわらず、高い性能を発揮しました。低電力帯のCPUでは10nmでIntelの中でも先端のアーキテクチャ「Willow Cove」を用いていたので、Intelのほうが上という見方が強かったのですが、Ryzenがそれを上回った格好です。

そして、IntelAMDの大きな違いとして、低消費電力帯のコア数の違いも上げられます。

IntelTiger Lakeを始め、15W/28W帯では、ちょっとコア構成が特殊になったAlder Lakeを考慮せずに話すと最大4コア8スレッドになっており、過去Comet Lake-Uで6コア12スレッドのSKUが登場しましたが4コア8スレッドが主流です。それに対して、Ryzenは15W帯のCPUで8コア16スレッドを提供しているという点で大きな差があります。これもRyzenの強みです。

これらのことによって、Ryzen 7 6800Uで行ったCPUによる3DレンダリングCore i7-1185G7と比べて1.26倍高速であると主張しています。

GPU

GPUになるとさらにその差は大きくなります。

同じくCore i7-1185G7とRyzen 7 6800Uの内蔵GPUによる性能比較で、6800Uは1185G7の3倍以上の性能を発揮。Intelはまだ第12世代Coreの28W以下の製品をリリースしていないため、比較対象が第11世代Coreとなっているものの、GPUの世代は第12世代と同じであるということを考えると、Alder Lake-PやUと比較してもGPUの性能は大きく上回ることになるでしょう。

GPUの内部構造は、RDNA 2アーキテクチャで最大2.4GHzにブーストするCompute Unitを最大12基と4基のレンダーバックエンドを搭載した「Radeon 680M」をRyzen 7/9に、6基のCUと2基のレンダーバックエンドを搭載した「Radeon 660M」をRyzen 5にそれぞれ搭載。RDNA 2の技術としてハードウェアレイトレーシングに対応します。また、メモリの帯域幅が1.5倍になったことも功を奏している模様。

AMDは、Ryzen 7 6800UではGeForce GTX 1650 Max Qに近しいグラフィック性能を発揮すると主張。それに加えFidelityFX Super Resolution(FSR)とRadeon Super Resolution(RSR)などを組み合わせれば、同等かそれ以上の性能が発揮できるといいます。これ裏返せば、15W TDP帯のAPU搭載PC、多分最大消費電力は60〜70WくらいのPCがひと世代前のエントリゲーミングラップトップと似たような性能になるってことなんですよね。恐ろしい。

この点で特筆すべきなのは、内臓GPUであるにも関わらず、レイトレーシングに対応するという点。まだそこらへんの仕様が明らかにはされていないため断定はできませんが、Radeon 680Mには12基の、660Mには6基のRay Acceleratorが搭載されているものと予想されます。

無論、ディスクリートGPUにも対応します。特に拡張面としてPCIe 4.0にモバイル向けRyzenで初めて対応。かつ5.0GHz SKUの登場もあり、かなり高性能なゲーミングパソコンを構成することが可能となっています。

電力効率

Zen 3+の最大の変更点は、電力効率です。AMDもCESで24時間バッテリーが駆動するとしていました。

実のところ、今回のCPUの性能向上の部分にはIPCの向上が全く含まれていないというのが大きなポイントです。普通は、アーキテクチャ世代の進化によってIPCが上昇するものですし、私もそう思っていました。

ちなみにAMDは、消費電力あたりの性能とプロセッサ面積あたりの性能を主軸に、Ryzen 6000番台で「プロセス」「コアアーキテクチャ」「SoC(パッケージ)」「ソフトウェア」「プラットフォーム」の5層にも渡る改良によって消費電力の最適化を実現したそうです。

面積あたりの性能で言えば、プロセスルールの更新がかなり大きな貢献をしたのでしょう。

コア

この消費電力の最適化というのは、Zen 3+は電力効率を再重視していて、性能向上はその副産物になったという点です。

AMDはZen 3+においては、50箇所もの改善・改良が加えられてるとのことで、AMDとしては初めてノートパソコンに特化したアーキテクチャであるとのこと。ちょっとここにリーク情報を組み合わせると、Zen 3+にはデスクトップ向けバリアントが今の所存在しない(6000Gは出てくるかもだけど)ということなので、これはおそらくノートパソコンに特化しまくったアーキテクチャを作ることができたというのが本音何でしょう。

IPCがZen 3と同じであるということを考えると、単純な性能はクロックの向上によって果たされたものとなり、そして電力効率が改善されたということは、電力あたりのクロックが上がったということにもなりますし、今回AMDが5.0GHz推しをしているのにもかなり納得がいきます。

電力ステート

今回、この記事を書くにあたっていくつかの記事を参照していますが、そのほとんどにステートの話がウェイトを占めています。あいにく、この発表というのはプレス向けのものだったので、Nishiki-Hubとして公式発表を見ることはできないものの、AMDのプレス向け発表でもこの電源ステートの話がかなりウェイトを持っていたことが見て取れます。

Ryzen 6000番台には新たに、電源ステートの中で最も低電力な(Deep Sleeperとも呼ばれる)ステートであるPC6からの復帰にハードウェアの支援が加わることで最大4倍高速化するそう。これは言い換えると、スリープ復帰がすごく高速になるということです。

その他のステートとして、Z9・Z10が追加。Z9はディスプレイがオンになっているもののAPU自体はほぼ電力を使っていない状態、Z10はもはや電源供給がオフになっている状態となっており、Z9は待機状態のスクリーンセーバーとか、Z10はモダンスタンバイなどに用いられるのでしょうか。

そして、CCX(CPU Complex)内部をつなぐファブリック部分でL3キャッシュに関わる部分で、スリープ復帰や電源投入時の応答性を改善するためにL3キャッシュの初期化を遅らせたり、L3キャッシュのミスヒットが連発したときはメモリバスを休止させないことで応答性を高める機能が追加されました。

その他、IntelのCPUと似たような省電力機能が多く搭載されています。

AMDは、このような努力の結果、平均消費電力は改善されており、全世代のRyzen 5000シリーズと比較して、Windowsの待機状態時に8%、ビデオ再生時に17%、モダンスタンバイ時に12%、バッテリーの駆動時間が改善されているとしています。

Intel比較

以前からの情報では、Alder Lakeと対抗するZen 3+は、Alder Lakeのハイブリッド構造よりも電力効率が悪くなるというふうに期待されていました。それがどうなったのか。

AMDの公称では、双方がCESで発表した最新世代のモバイル向けCPU「Ryzen 9 6900HS」と「Core i9-12900HK」での比較では、Ryzen 9 6900HSの方が消費電力あたりの性能で12900HKを2.62倍上回るということになりました(ただし、両者ともに違うメーカーのデバイスを用いている)。

そして、前述のコア数という点にも着目。最新世代でRyzenは超薄型ラップトップで用いられる15W帯に8コアSKUを設定していますが、Alder Lakeは2 Pコアのみであると主張。確かに、Alder Lake-U15Intelは、2P8Eで物理コアを計10コア搭載しているものの、実質Pコアのみで構成されるRyzenのほうが電力効率もいいといえます。


モバイル向けであれば、AMDIntelに比べて電力効率が小さいという言われようでしたが、今回のアップデートによってその状態が大きく改善。長時間駆動デバイスとしてAMDの選択肢が増えることになりました。

ここにまたリークの情報を加えると、Surface Laptop 4のリークでCore i7-1280PとRyzen 5 6680UないしはRyzen 7 6980Uの駆動時間のスペックにおいて、AMDのが2時間長い駆動時間で掲載されているそう(ただこの数字、両方ともSurface Laptop 4と変わってないのも気になる)。

リリース計画

Ryzen 6000シリーズは、35W帯APU、末尾HSのSKUから投入されます。

今月中にHSが登場します。そして3月初旬を目処にハイエンド45W帯のHXと、一般向け15~28W帯 Uシリーズが投入されます。企業向けのRyzen PROは3月中旬を目処に登場するそうです。

個人的には超ハイエンドな薄型PCというかなりギャップのある、かつAppleにも対抗できるんじゃない?ってほど高効率なRyzen 6000シリーズを歓迎したいですね。

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