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Armがライセンス形態を変更しOEMと直接契約する方針 〜 Arm以外の独自GPUとArm CPUの混載を禁止する可能性も

錦です。

SemiAnalysisによると、Armがライセンス形態を変更し半導体企業との契約を廃止し、OEM(デバイスメーカー)と直接契約する方針であることがわかりました。

Qualcommの主張

今回の話はQualcommが裁判所に提出した主張から明らかになったものです。その主張はSemiAnalysisに掲載されています。Qualcommの主張の要点をまとめます。

  • ArmはQualcommのパートナーの少なくとも1社以上に対して「OEM製品の売上に応じてロイヤルティを支払うArmの新しい直接のライセンスを結ばない限り2025年以降Armベースのチップを入手できなくなる」という虚偽の説明をした。このときArmは、契約しないと競合と契約することになると脅した。
  • QualcommはArmと包括的な契約をしているため、ArmはQualcommのパートナー企業に対してロイヤルティを請求することはできない。
  • ArmはQualcommのパートナーの少なくとも1社以上に対して「QualcommのArmライセンスが2024年に終了するため、2025年以降にArmベースのチップを提供できない」、「QualcommとのTLAが終了した時点でQualcommを含む全ての半導体企業に対してTLAの更新を行わない」と話した。
    • QualcommはALAに基づいて2025年以降も数年間ライセンスを取得しており、当初の契約期間を超えてさらに数年間契約を延長する一方的な権利が付与されている(ALAの内容が裁判所に提出されたようですが、公開されなかったようです)。
  • ALAの内容から、(Armが終了したと主張する?)QualcommのALAは終了しておらず、また終了する権利を生じさせるような事象も発生していないため、当初の契約期間(これはおそらく2025年より前)までライセンスが継続され、延長できる期限(おそらく2025年以降)まで延長することができる。
  • ArmにはQualcommに追加のロイヤルティを請求する権利はないし、包括的な契約をしているからQualcommの顧客に対してもロイヤルティを請求することはできない。
  • Armは、OEMメーカーに対してCPUライセンスとともにArmのGPU/NPU/ISPをライセンスに関連付けることで、Qualcommや他の半導体メーカーが提供できなくなると圧力を掛けた
  • Armは、OEMとの直接ライセンスを必要とする新しいビジネスモデルについてQualcommに通知したと主張しているが、されていない。
  • Armは、CPUを半導体企業にライセンス供与しないこと、またその他のArm GPU、NPUなどをArmからのみ取得するようにライセンシーに要求することをQualcommに通知していない

となります。大きくまとめると「ライセンスが変わることがQualcommに通知されていない」ということ「Armがかなり独占的な契約(ビジネスモデル)に移行しようとしている」ということが主張されていますね。

正直、技術にしか興味がない私としては、上の方の「言った、言ってない」「圧力を掛けた、掛けてない」はまあ、裁判で争ってどうぞって感じなんですが、新しいライセンスについては気になります。

この主張から新しいライセンスの情報をまとめると

  • これまではArm 対 半導体メーカーだったのが、Arm 対 デバイスメーカーに変わる
  • Arm CPUとともにArmからライセンスされたGPUやNPUなどを採用しなければならない(他の企業のGPUやNPUなどを採用してはならない)

となります。とくに重要なのが2つ目の項目で、Arm CPU+独自GPUの構成が禁止されるというものです。これは、現在のSoCに大きな影響を与えることになります。例えば、QualcommのSnapdragonは、Cortex CPUと「Adreno」という独自GPUを採用しています。これはSnapdragonをベースにしている、MicrosoftのSQ1/2/3も同様です。また、SamsungはExynosにCortex CPUと「Xclipse」というAMDのRDNA 2 GPUを採用しています。そして、MediaTekもCortex CPUとImagination製のGPUを採用しています。これらが禁止になるということになります。

個人的には、この新しい契約はArmを頂点とした強権的かつ独占的なものになるので、特に米国で反トラスト法などに抵触する可能性があると考えていますがどうなんでしょうか。

ちなみに、Armの大本であるAppleや、関係がものすごく良好のNVIDIAも独自GPUなんですが、こちらは大きな影響はなさそうです。

この記事を理解するために

ライセンス

Armは御存知の通り、Armという命令セット(ISA)とそれをベースにしたCPUなどを開発する企業です。自社でチップ製品もありますが、自社で開発したものをライセンスするという事業も行っています。

そのライセンスには、TLA(Technology License Agreement/技術ライセンス契約)とALA(Architecture License Agreement/アーキテクチャライセンス契約)の2種類があります。

それぞれを解説すると、TLAは「Armが開発した知的財産を使う権利」となり、ALAは「Armの命令セットを使う権利」となります。

例えば、Snapdragonの場合、製品自体はQualcommが開発したものですが、CPUはArmが設計した「Cortex」というものを採用しており、これはTLAベースで開発されていることになります。一方でAppleはArmベースではあるものの、Arm ISAのみを採用しCPU自体はApple自社設計であるためALAに基づくものだと見られます。

もちろん、Armはどの企業がどの契約を結んでいるかを法的な理由以外で公開することはありませんのでこれは予測に過ぎませんが、少なくともQualcommはTLAを結んでいます。

ちなみに、TLAはALAを包括しているわけではなく、もし独自カスタムでArm ISAを使うチップを作るならTLAを契約していたとしても別途ALAの契約が必要なようで、その逆もそうです。

これまでの経緯

まず、そもそもここに行き着くまでの話をまとめていきます。

2019年にApple A12Xなどの設計に関与した従業員が独立してNUVIAという会社を立ち上げます。その後、2021年3月にQualcommがNUVIAを買収しました。いつかはわかりませんが、立ち上げた2019年〜買収される2021年3月の間にNUVIAはArmとTLA、ALAの両方のライセンスを保有していたようです。

QualcommはNUVIAのライセンスをそのままQualcomm自身に移管しようとしました。それに対してArmは「その移管にはArmの承諾が必要ではないか」と主張し、Qualcommと競技を続けていました。一方で、NUVIAとArmの契約は2022年3月に終了しており(Armが終了させたっぽい)、それ以降もQualcommがNUVIAのライセンスベースに開発を続けたため2022年9月にArmはQualcommを提訴したという流れ。

もっと年表付けてお話しましょう。

  • 2019年:AppleからNUVIAが独立
  • 2019〜2021年:NUVIAとArmがALAとTLAのライセンスを交わす
  • 2021年3月:QualcommがNUVIAを買収
  • 2021年:ArmがQualcommと競技を開始?
  • 2022年3月:ArmがNUVIAとのライセンス契約を終了
  • 2022年3月以降:QualcommがNUVIAの知的財産での開発を継続
  • 2022年9月:ArmがQualcommを提訴

QualcommもALAを持っていたようですが、NUVIAのそれよりも日付が短くてNUVIAのものを使おうとしたと言うことにArmが激怒しているというわけのよう。ただし、この話のわかりにくいところは、本文中のライセンス期間が伏せられていることですかね。

提訴の要因となっているのは、2022年3月以降にライセンスが切れてるのにも関わらず開発を続けた点であり、そこを掘るとそこに行き着くまで(NUVIA買収以降)のライセンス移管の話がおかしいのではないかというのがArmの言い分なわけですね。

ちなみにですが、Qualcommは2022年9月3日、Armに提訴された翌日に、Arm ISAをベースにした独自コアのPC向けSoCの計画を明らかにしていますが、この裁判の行方次第では実現しないかもしれません。

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