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【編集後記】iOSにおけるRootless脱獄とサイドローディング

私の記憶上「Jailbreak」が一番盛り上がっていたのはiOS 5iOS 10くらいだったかと思う。当時は画面収録ができなければ、OSを横断するファイルアプリもない状態だった。時が流れ、私自身も脱獄に対する熱が冷めてしまったが、最近ちょっと脱獄界隈が面白そうだという話をする。

Root権限の不要論

脱獄はRoot化と同義だと私は考えていた。iOSではRoot権限でアプリケーションを実行することが原則としてできない。そもそもUnix系のOSであるがターミナルエミュレートができない。

そもそもRootとは何なのかということを説明しておく。コンピュータ内のストレージに保存されているデータは基本的に全てがファイルである。そしてそのファイルはディレクトリという住所のような物があり、そしてそれらは1本の木のように、根から幹へ、幹から枝へ、枝から更に枝へ、そして葉へ、という感じに分岐して行く。その根の部分、つまり全てのディレクトリの親の部分がRootである。

Rootはシステムファイルも含まれているので、少しでも触るとシステムがぶっ壊れるということもあり得る。そのためroot権限(スーパーユーザー)というものでそれをいじることを制限している。iOSでは一般ユーザーがそれらのシステムファイルを変更するどころか閲覧、アクセスすることもできなくなっている。それを可能にするのが脱獄である。

iOSの更新と脱獄開発はいたちごっことよく言われるが、最近はiOSの脱獄も昔のように完全脱獄ではなく、半脱獄のような状態となっている。そして此度「Rootless脱獄」というものが登場した。

Rootless脱獄はその名の通り、Rootへのアクセスができない脱獄状態である。Rootless脱獄は私が理解している中では/var/以下で環境を整えているようなので、システムファイルへのアクセスができない。やはりシステムファイルを弄れないということは、OSの機能の拡張は要Root脱獄よりも制限がかかることが予想される。

しかし脱獄をする人の目的は様々であり、iOSの拡張をするだとか、ただ単にApp Storeにないアプリをインストールするだとか、iOSを中からいじくり回すだとか。そうしたときに必ずしもRoot権限がいるのかと言われればそうではないような気がする。脱獄アプリはシステムファイルの変更が必要ではない場合も多いらしく、単純にAppleのポリシーに反するからApp Storeに提出できないだとかで普通のアプリはもちろん、どうやら、システムファイルをいじらなくてもコントロールセンターにトグルを追加したりするのもシステムファイルへの変更なしで可能であるそうだ。

さらにRootless脱獄にはメリットがある。要Rootの脱獄は脆弱性をついてRootをユーザーやアプリからアクセスできる状態にしているということだが、裏返せば悪意のあるアプリが端末すべてのファイルにアクセスできることを意味している。そのため、脱獄して真っ先にやることがRootのパスワードの変更であった。しかし、、システムファイルへの直接のアクセスは難しい。そういう点ではセキュリティ上は要Root脱獄よりマシなのかなぁと。あと、Rootless脱獄は名前だけ見ても脱獄への敷居が低くなった気もする。

なお、Rootless脱獄は要Root脱獄アプリは使えない。開発者側でRootless脱獄に対応する必要がある。

Rootless脱獄も、一つの脱獄の形だとはいえ、TaiGやPanguの全盛期のような盛り上がりはもう残ってないような気もしてならない。iOSもいつしか機能が増えてきて、昔みたいにどこもカスタマイズできないというようなOSではなくなった。ホーム画面にウィジェットが設置でき、既定のブラウザが変更でき、画面録画が可能。そして一部の脱獄民が望んだマイクラの拡張もアドオンという形で実装された。

そういった中では脱獄界隈はもう寂しいものになっているのではないかと思ったのだが、今回この記事を書くにあたっては、まだ結構盛り上がってることに驚いた。正直、個人的には脱獄アプリで気になるものもあるので、今後も脱獄界隈が続いていくことを期待したい。

サイドローディング問題

話は変わる。脱獄をする目的の一つに「App Storeにないアプリを入れるため」というものがあるということをお話した。これは言うまでもなくiOSは原則App Storeからしかアプリをインストールできないためであるというのがその理由だろう。

App Storeからしかアプリをインストールできない仕様に、もどかしさを覚えているのは脱獄をしている人だけではない。各国政府も気にしている。特に欧州。

世界的に見て、App Store以外からのアプリをインストールできるようにする「サイドローディング」を認めないAppleの姿勢は独禁法などの観点から問題視されている。実際に民事であるがAppleGoogleEpic Gamesから訴訟を起こされている他、SpotifyやTinderを運営する会社の親会社であるMatch GroupはAppleを批判している。あまり人のことを言えないと思うのだがMirosoftもAppleGoogleを批判している。

EUでは、すでに法律(ほぼ名指しの法律だが)でサイドローディングが義務化された。Appleもそれを認める見込みでiOS 17では、少なくとも欧州でApp Store外からのアプリインストールが認められる見通しだ。

もしこれでサードパーティ発のアプリストアが登場したらどうなるだろう。おそらく、アプリストアとともにCydiaやSileoのようなパッケージマネージャ的なものも登場することになる。そうなると、脱獄しないとできないことが脱獄なしでしかも正規の方法で出来るようになる。

日本におけるサイドローディング

日本ではどうだろう。昨年訪日したAppleのTim Cook CEOは岸田首相と会談した。報道では、Cook CEOは日本政府に対して、サイドローディングを強制しない様に求めたようだ。

確かにサイドローディングを認めることで、デジタル市場で競争が加熱することは間違いない。ただし、Appleが(少なくとも表面上)懸念しているのがセキュリティである。AndroidGoogle Playというアプリストアがあるものの、他社プラットフォームもある程度は容認していた。そのためアプリをブラウザから落とすなんてことも可能で、そしてそれによってマルウェアiOSの数十倍存在するとまで言われた。

iPhoneはポリシーと審査が厳格なApp Storeからしかアプリをインストールできないということから、「iPhone 安全神話」が生まれるほど高いセキュリティを維持してきた。しかし、サイドローディングを認めることでこの牙城は潰れかねない。

日本政府としてもこの点は理解しており、サイドローディング許可を求めるというスタンスながら、「セキュリティの確保やプライバシーの保護上問題がない場合には」と付け加えられているらしい。この部分だけ見ると、日本政府は欧米と比較してサイドローディングを認めないというApple寄りの意見もあるようにみえる。

懸念されるのが、App Storeで有料で販売されているゲームが非正規のストアで無料で配布されている・・・ような事例。まだそのアプリが、正規のものと同じものであれば(もちろん良くはないが)セキュリティ的にも問題ないだろうが、偽アプリで改造されてたとしたら情報を抜き取られるかもしれない(みんなMD5でハッシュ化して検証しろというのはなかなか暴論)。

正直なところ、ここから先はリテラシーの高さが求められる。有料ゲームを無料で遊ぼうなんて輩はおそらく小中学生などのリテラシーが低い層なので、サイドローディングを義務化させるのであればそういった教育もしていかなくてはならないのではないか。

今後の展望

サイドローディングが認められればユーザーとしては選択の幅が広がることになる。ただ、それと同時にセキュリティの問題も跳ね上がる。前述の通り、違法アプリの問題もある。WindowsにはWindows Defenderというかなり優秀なウイルス防止機能がある。それと同等のものがiOSにあるのか。若干それは疑いの余地がある。

そして、サイドローディングが認められれば、必然的にアプリストアも認められるだろう。Microsoftは実際にiOSのサイドローディングが認められれば参入することが見込まれている。それ以外の王道のアプリストアで言えば、SteamやAmazon App Storeがあるが、これらも参入してくるかもしれない。

個人的に胸熱な展開としては、CydiaやSileoがもちろん完全な状態ではなくとも未脱獄環境に提供されることである。これらが認められるのであれば、なにかシェルも認められてほしいし、それを持ってしてHomebrewとかもiOSに来たら面白いだろう。まあ、そこまで来るとmacOSiOSでほぼ差がなくなってしまうのだが。