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Meteor Lakeの進化 ~ メジャーアップデートの期待と現実

おそらく、Hパッケージで用いられるMeteor Lakeパッケージ 出典:Intel

さて、Meteor Lakeが登場したが、かなり評判がよろしく無い。というのも、今回のアップデート、性能が大きく向上した訳では無いためである。AMDも同様で前世代と今世代で性能はさほど向上していない。これは、アーキテクチャが全く同じであるためである。

チック・タック

Intelは戦略として「チック・タック」を採用している。これは何なのかというと、プロセスルールの微細化と、アーキテクチャの最適化を交互に繰り返すというものである。

もっと具体的に説明すれば、チックはアーキテクチャはほぼそのまま、プロセスだけを進行させる。タックではプロセスの世代をそのままに、アーキテクチャを変化させる。

10nm世代を例にあげて説明する。第8世代「Cannon Lake」は、Skylake CPUアーキテクチャのまま10nmに微細化されたのでチック。Ice Lakeでは10nmでアーキテクチャが大幅に更新されたのでタックとなる。若干の例外もある。例えば、Tiger Lakeは10nmであるが、10nm SuperFin世代でアップデートとなるためチック、10nm Enhanced SuperFinが名前を変えたIntel 7を採用するAlder Lakeはアーキテクチャが更新されたタックとなる。

そして、微細化の予定がずれると、Raptor Lake、Coffee Lake、Comet Lakeなどのチックでもタックでもないアップデートを何回も繰り返す状況に陥る。

Meteor Lake

この考えで行くと、Compute TilesにIntel 4を初めて採用したMeteor Lakeはチックになる。つまり、慣例上、アーキテクチャはほぼ更新がないといえる。

Pコアは今回「Redwood Cove」というアーキテクチャになっている。しかし、このアーキテクチャは名前こそ変わったものの、これといって目立った変更は行われていない。というのも、帯域の向上というわかりやすい変更点以外は、効率の向上という抽象的な内容となっている。さらに残りの機能についてもIntel Thread Directorの最適化やパフォーマンス監視の最適化など、ソフトウェア寄りのアップデートが目立つ。

極めつけに、シングル性能については、公称のスコアでRaptor Lakeのi7-1370Pを下回るという衝撃的な結果もあった。そして、実機ではすでにRyzen 8040シリーズが登場しているのにもかかわらず、Ryzen 7040シリーズよりも低い性能となる場面が続出したようだ。

全体として、CPUの進化には疑問があるようだが、多分チックにあたるせいだ。タックとなるArrow Lakeは期待できるだろう。

その一方で、Eコアは超大規模なアップデートと言う訳では無いが、進化されている。「Crestmont」はCore系統のラインナップにIntel Hybrid Technologyが採用されて初めてのEコアのアップデートとなった。

こちらはおそらく、Sierra Forestへの採用を見越している。例えば、AVX-10のサポートで一本化される方針が確定しているためAVX-512のサポートは見送られたが、AVX-VNNIが拡張されている。NPUなどを搭載するMeteor LakeでもAIの性能を底上げを図っているのだろう。

Meteor Lakeの本命

ではMeteor Lakeは悪なのか。それはそうではない。というのも、Meteor LakeはCPU重視のアップデートより、省電力とGPU・NPU、そして構造のアップデートが中心だからだ。

事実、GPUAMDに大きく劣っていたものが追いついている。Tiger Lakeで初めてXe Graphicsが採用されたが、CPUの内蔵GPUはXe-LPというバリアントとなっており、そもそもの機能が少ない。GPU自体はArcと共通だが、アクセラレータが無かったのである。このままTiger Lake→Alder Lake→Raptor Lakeと3世代アップデートが行われずきた。

Meteor LakeではGPUに変更が加えられた。まず、GPUアーキテクチャ自体はXe系統だが、ベースがXe-LPではなくXe-LPGとなった。これは何かというと、Intel Arcを小さくしたものがMeteor Lakeに搭載されているのである。これに伴って、Intelの内蔵GPUとして初めてDirectX 12 Ultimateをフルでサポートし、レイトレ・メッシュシェーディング・アップスケーリングなどの現代の3Dグラフィックス技術やフレームレート向上技術を用いたゲームをプレイすることが可能になった。

GPU自体もDP4a命令が追加された。これによってAIの性能の底上げが図られた。ただし、Intel Xe Matrix Engine(Intel XMX)は省略された。アップスケーリング(XeSS)への対応も、Meteor Lakeでは、XMXが省略されているためDP4aに依存している。

NPUについてもRyzenでは搭載されていないモデルがあるのに対して、Meteor Lakeでは標準装備となる。さらに、Intelが培ってきたAIプラットフォームをそのまま維持するためAMDに対して優位に出られるだろう。OpenVINOをサポートしているのも大きい。

AIの性能についてはMeteor Lakeで格段に上がっている。CPUでのAVX-VNNIのサポート拡張と、GPUでのDP4a追加、そしてNPUの追加によって、プロセッサ全体でのAI性能の底上げを果たした。ただ、IntelAMDQualcommの3社のなかでは最もAI性能が低い34TOPSであり、AMDは来年までに3倍のAI性能向上を予定しているため、Intelの課題は性能を上げることができるかとなる。

そして、省電力。IntelApple Siliconに対して省電力的にリードしたいと考えている。Intel Hybrid Technologyによってアイドル時の電力を大きく落とすことができたが、Meteor Lakeではより踏み込んだ技術が取り入れられている。

Meteor Lakeはタイル構造で機能ごとにチップが分割されているが、そのうちSOC TileにはCompute TileやGraphics Tileがあるにも関わらず、小規模なCPUとディスプレイエンジンが備えられている。これは、アイドル時の省電力性を高めるためだ。

Compute Tileを動作させるとどうしても消費電力が上がってしまう。そのため、忙しくないときはこれを眠らせておくというのが、Meteor Lakeのタイル構造の最大の変更点だ。

具体的に説明する。PCは常にフルパワーで動作しているわけではなく、実際には処理リソースをそれほど要求しない時間のほうが長い。スリープ時を含めて考えると、極限まで処理リソースが要求されていない場面では、駆動するだけで、比較的大きな電力を消費するCompute TileやGraphics Tileに電力を割くのは無駄である。

そこで、メモリコントローラなどの起動状態に必要な機構を搭載しているSOC Tilesに小規模なCPUと映像出力機能を搭載すれば、Compute TileやGraphics Tileへの通電を行わなくてもいい場面が増える。

結果として、SOC TilesはPC起動状態の維持に必要最低限のリソースだけをもっているため、消費電力も小さくなり、アイドル時の消費電力が小さくなる。これがもっとも大きなMeteor Lakeのアップデートと言えるのではないか。

消費者へのアプローチ

ハードウェアに興味があるような人からすれば性能の進化というのは非常にわかりやすい指標となるが、普通に使えるパソコンを求める人にとって、「一定以上の性能がある」以上の性能の指標はあまり宛にならない。もちろん、Apple Siliconや初代RyzenIntel Alder Lakeのように大きな性能向上や効率向上からバッテリー駆動時間が飛躍的に伸びた場合は、消費者としても体感できる部分があるので、消費者にも刺さるマーケティングになる。

どちらかというと、どのような機能があり、どのようなことができるのかというところがメインとなる。例えば、現在のCPUはオフィスユースからクリエイティブユース、ゲーミングまで、基本的にあらゆる事ができるほど高性能になっている。これはすでにRaptor Lakeなどで証明されている。

一方で、Intelの内蔵GPUはあまりにも貧弱で、クリエイティブユースに耐え難い場面が多かった。そこに対して、GPUを伸ばしたというのは大きなアピールとなる。

更に、Intelの内蔵GPUはこれまでもゲームができることをアピールしてきたが、レイトレの対応のようなわかりやすい新機能の追加を大きく宣伝した方がMeteor Lakeの価値を見出しやすいだろう。

そして、Meteor Lakeの特徴の一つであるNPUであるが、これは生成AIによる第3次AIブームが巻き起こる中でAIをサポートするということをアピールするのは、マーケティングにおいて重視されるのではないだろうか。

もちろん。プロセッサであるためCPU性能は重要だ。それを求めているユーザーからすると、残念な結果になったかもしれない。ただ、機能としては十分で、性能では測れない部分の進化が中心だった。

幸い、現在はIntel Core Ultraだけでなく、Ryzenも選択肢としてある上、超パワーアップして登場するだろうQualcommのSnapdragon X Elite、そして、Apple M3で進化したMacもある。来年は自分の用途にあったパソコン選びがより重要になることにはなるだろう。